この注意ももう一度。HIV/AIDSに関する情報はリンクしているHIVマップや各種医療系サイトをご参照いただくほうが正確ではないかと思います。本記事では一参加者の視点で学会を振り返っていきます。
最終日の朝もやはり午前8時スタートです。
別に必ず朝一のプログラムから参加しなければならないというわけではないのですが、せっかくなのでこの際いろいろ勉強しておこうと思って選んだのは教育講演「薬物依存症とHIV感染症−予防的な働きかけを中心に−」。昨日は朝からハッテンとかタチウケとか言ってましたが、今日は朝からラッシュとか5meoとかエクスタシーって話です(もっと言いようがあるのではないか)。
薬物依存とHIVというのは以前は注射器の使いまわしによる感染という側面で語られていたのですが、最近はそれに加えて、セックスドラッグがセーファーセックスの阻害因子になるという側面も語られるようになっています。
実際、薬物依存者向けの援助機関ではHIV/AIDSに関する相談が増えているということもあるとのことだったので、ちょっと関心を持って聴いてみることにしました。
日本の現状としては薬物乱用者のHIV陽性率はそう高くないのですが、データでは薬物乱用者には無防備な性行動が多く見られることに加え他の感染症での感染率の高さが指摘され、薬物乱用者の中に感染者が一定数増えると一気に広がるんじゃないかな、と予測させるものがありました。日本では若年層に薬物の広がりがみられるという指摘もあるので、両者を合わせるとHIVをはじめとした性感染症の低年齢化なんてことにもなりかねないと言えそうです。
薬物に関する教育を学校で行うなら、性教育の論議が紛糾する中、薬物問題を入口にHIVなどについても教育するのも現実的かも、とちょっと思ったりしましたが、薬物問題も子供たちの関心を煽るから駄目、と言われてしまうのでしょうか。
また、海外だと交換用の注射器や消毒液の配布などをして、薬物使用そのものではなくて薬物乱用に伴う健康被害を第一段階として食い止めるための施策がとられているところもあるんですが、そういうところでコンドームも一緒に配布されているんですね。ハイリスク層をターゲットに予防啓発をする、という当たり前の話ではあるのですが、日本ではまだ薬物依存者ケアの支援団体とHIV関連団体の協働はこれからの話です。
さて、次に僕が3日間の中でもっとも個人的に興味があったプログラムがやってきました。シンポジウム「医療者へのエイズ教育」です。
ここで、もうおわかりの方にはこの段落ごと読み飛ばしていただきたいのですが、HIVとAIDSの説明をすごく簡単に。HIVっていうのはウィルスの名前です。このウィルスに感染するとCD4と呼ばれる免疫細胞が減少します。この細胞は免疫の指揮系統を司るものなので、CD4が減っていくと、免疫力が低下します。その結果、非感染者では病原が体に入ってもまず発症に至らないような感染症が発症してしまうようになります。そして定められた感染症が発症した場合に「AIDS発症」ということになります。この定められた感染症には、脳の病気や呼吸器の病気など様々な部位のものが含まれています。
現在HIV/AIDSは「死なない病気になった」と言われていますが、それはAIDS発症をしていないか、していてもその発生した感染症の治療が可能な段階で発見された場合の話です。酷い言い方をすれば、AIDS発症してしかも“手遅れ”の状態で発見され、亡くなられる方はゼロになっていません。
またHIVウィルスを体内から除去することは未だにできていないので、その方法が発見され医療の現場で実施されるまでは、陽性者はAIDS発症に至らないための予防を生涯続けていくことになります。
僕がこのプログラムに個人的な関心を抱いた理由はごくシンプルで、HIV診療をするお医者さんがあまりにも忙しそうだからです。専門医さんは少ないですから。一方で、医師を目指す学生さんたちがあらゆる診療科に均等に分散することはありえないわけで、その結果小児科医や麻酔科医の不足なんてニュースが出てきますよね(実際は医師そのものの総数が不足しているような気もしますが)。じゃあHIVの専門医、あるいは感染症科っていうのはどうなのかと。
今回のエイズ学会のテーマに会長の高田先生が教育の文字を入れたのは、このあたりに危惧があるからだろうと思ったわけです。
抄録集のシンポジウム案内にはもっとはっきり書いてありました。2010年の日本のHIV感染者・エイズ患者数を42,000人と推測する報告があり、一人のエイズ専門医が毎月100人の診療を行うとすれば、同等の力をもった医師を420人準備しなければならない、と述べた後抄録集にはこう書かれています。
「全国の各医科大学の卒業生から毎年1人がエイズ専門医を目指しても年に80人。間に合うかどうか心配です」
文脈からみて、各医科大学から毎年1人がエイズ専門医を目指す、というのは希望的な発言と感じられました。ということは、抄録の筆者(おそらくは高田先生か、一緒に座長を務められた国立国際医療センターの照屋先生)の感覚では、エイズ専門医を目指す医大生はそんなにいないだろうという感覚的なものがおありなのではないかと感じました。
一方で僕のボランティア活動をしている中で、ゲイイベントなどにブースを出して接客しているとですね、ときどき医療関係者やそちら方面を目指している学生の方(概ねゲイかバイ)が来るんです。で、話をしていると、「・・・・それはちょっと昔の話だなぁ」とか思ったり、逆にその人の口から「G-menで知りました」みたいなことを言われることがあって、これまでは「感染症は専門外の方なんだな」で自分の中では終わっていたんですが、ひょっとしたらそうじゃないのかなって思うところがあったので、そのあたりを確かめたいと思ったのも関心がある理由の一つです。
シンポジウムは、冒頭から座長の高田先生が「医療者へのセクシャリティー教育は不足している」と発言されるなど、ある意味期待通りの展開でスタート(苦笑)。まず医学系・看護系大学でのHIV感染症教育の実態についての調査報告からなのですが、これが予想以上に衝撃的でした。
調査報告の発表開始直後に、授業で全く取り上げない大学も一部あることが明らかに(爆)。で、その理由として、授業時間の不足とかはまだ僕としては許容できるのですが、すごく気になった理由が「学生のニーズが無い」。
・・・・大学のカリキュラムって学生のニーズで決まるものなんでしょうか。ゼミの設置とかではニーズは重視されると思うんですけど、基礎教育として感染症はあると思うので、その中で取り上げることすらしないのでしょうか。
次にじゃあ何の授業で教えているかって話なんですが、これが感染症学であったりウィルス学であったり公衆衛生学であったりとまあバラバラ。
そしてそのあとの使用教材の調査である意味最大の問題が発覚。
未だにエイズは必ず死ぬ病気であるかのような記述がある教科書があるそうです(核爆)。
・・・・医療系出版社の方の学会参加があったことを願ってやみません、はい。これでは各種ゲイ雑誌のほうが情報が正確です(汗)。
ここで思ったことがありまして、ひょっとして医療関係の仕事を目指すゲイの学生さんがブースに来るのって、
ゲイだからHIVに関心はある
→ でも一向に授業で出てこない
→ 教科書を調べると出てくるが何だか間違ってる気がする
→ 教授に授業に関係なくいきなりHIVのことを聞くとゲイバレしそう
→ ゲイイベントに確認に行く
みたいな構図だったら困った現実だなぁと。
「自分がAIDSで死ぬ確率より、主治医が過労死する確率のほうが高い気がする」なんてブラックジョークが陽性者間の会話で出てきたことがあったんですが、この調子ではこれからはジョークにならないかもしれません。
もしHIV/AIDSに関して一定の教育が行われれば、専門医が急増はしなくても、一般のお医者さんが診察に来た患者さんの問診などを通じてHIVを早期発見できるようになる可能性もあります。早期発見して早期に治療を開始して、数ヶ月に1度の外来診療で済む患者と、発見が遅れて長期入院での継続治療が必要な患者とではもちろん専門医の負担は違います。そうした鑑別診断のスキルを教育する場面にHIV/AIDSを取り上げてもらうだけでもだいぶ違うのではないかと思うのですが。
アメリカでのそのあたりの教育の実例もシンポジウム中に紹介されていました。
それから、予防啓発が進んで、日本でのHIV陽性者の増え方が抑制されれば、医師の負担の問題までまわったところで医療現場の環境改善ってことになって最後は陽性者支援につながっていくんだな、ってことも感じましたね。
陽性者として予防啓発に関わっていると「自分のケースを伝えることで、同じような状況になる人を増やしたくない」という理由に思われることが多いんですが、医療や障害者支援の体制を確保する上でも、患者数を増やさないことは大事なことなので、自分のためでもあるんですよね。
あとセクシャリティの教育に関する不足については、実は医大生の中にもセクシャルマイノリティは絶対いるので、そのあたりも配慮しながらすすめてほしいなぁ、と思いました。HIVだけではなくて他の病気の中にもセクシャリティに関する教育が必要な場合があると思うんですけどね。
ともかくシンポジウム中は現状にがっかりしたりショックを受けることが多かったので(爆)、来年以後教育体制の改善の話が学会で出てくることに期待したいと思います。
午後のシンポジウムは、広島国際会議場で一番大きなフェニックスホールと言うホールでのプログラム「HIV検査・相談−その様々な取り組みと今後のあり方−」でした。
保健所などでの検査報告は初日のプログラムでもあったわけなんですが、ここで僕が注目していたのは郵送検査と個人輸入キットでの検査の話。
どうしても対面検査は嫌って人もいますからね。
個人的に郵送検査や個人輸入キットってあまり信頼できるものに思えていなくて十把一絡げに考えていたんですが、国内の検査機関による郵送検査の精度が意外と高いことがわかりました。一方で個人輸入キットに関しては半分くらいは問題があることも発覚。有効期限切れの製品なんていうある意味別業界でトレンディな話もありましたが洒落になりません。解説文書が英文のみだったり、偽造品だったりするものもあって、やめておいたほうがいい感じがありありとしていました。
ただ郵送検査も、結果の返し方がただ結果を返すだけで、陽性告知後のケアとかの問題が残ることが問題点として指摘されました。これは保健所などでも同じなのですが、対面のカウンセリングができない環境ではより深刻。文書を添付して案内したところでショックが大きくてまともに読めなくなってしまう危険性もあります。
でも実は、郵送検査、僕はすごく気になったことがあるんです。
血液を付着させたろ紙、これは郵便で送っていいものなのかと。
ちょっと過去の職歴からこの分野詳しいんですが(郵政省及び郵政公社及び新会社に勤務したことはありません)、郵便法上は特別に認可された研究機関などでないと送れないものなので、まあ検査機関は認可を受けているだろうとは思います。
でも民営化したので、今後はどうでしょう。会社の方針でいきなり一つの検査方法がシャットアウトされる、というのはさすがに無いとは思うんですがね。
あと郵送で結果を返している機関はちゃんと配達記録なりにしてるんでしょうか。
そのあたり気になって質問しようと思ったのですが時間切れでカットされてしまいました。残念。
このシンポジウムは、遠隔地に帰る方にとっては途中までしか聞けなかったり、終わった直後に大急ぎで空港に向かうなどの姿が見られました。
僕は最終に近い新幹線で帰る計画だったので最後までいられるのですが、最後の一般演題は薬害HIV感染にしました。
なぜこの問題なのかと言うと、病気と長期にわたって向き合いながら暮らすと言う点で学ぶ点が多いと思ったからです。
この演題では静岡県立こども病院の先生の発表が強く印象に残りました。
この病院、その名の通り小児科病院なのですが、薬害HIV感染者の方については、HIVと血友病の両方を診療できる医療機関が限られているために、実態として成人患者がいるという病院なんです。HIV医療のこうした側面を知ることはこれまで無かったので、衝撃的でもありました。
MSMグループでHIVに関わるとどうしても薬害とか母子感染とかは縁遠くなってしまうのですが、HIV陽性者の中では突然MSMはマジョリティになってしまうので、そのときにマイノリティになる女性の陽性者や母子感染、薬害による陽性者の方などの存在を無視するようではセクシャルマイノリティの人権など論ずる資格は無いと思うので、MSMグループのコーディネーターと言う立場にあってはMSM以外の実情を知るという意味でも役に立つものでした。
あとちょっと気になったのが、他の病院に転院されても戻ってきてしまう事例があるとのお話で、これは受け入れ先の問題も多分ある一方、思春期からずっと同じ病院に通い続けていることで、特定の病院(へたをすると特定の医師や看護師)に依存する傾向が出てくるのかも知れないなぁという印象を受けました。
初日のシンポジウムで患者からプロポーズされた看護師さんの話が飛び出したりしたのとリンクしました。
MSMの分野でもノンケの医師に惚れましたと笑い話にできるレベルならまだいいんですけど、なんてったってHIV専門医は仕事柄ゲイフレンドリーな人が多数だし、妙に依存的な患者さんが増えるのはお医者さんの職場環境としてはどうかと思います。
「ただでさえ色黒ガッチビ系なのにそのゲイ受けまっしぐらなソフモヒはやめたほうがいいと思います」とかアドバイスしてあげたい医師の先生もいたんですが、実際にゲイかもしれないので踏み切れませんでした(そんなオチでいいのか)。
結局のところとりとめもなくだらだらとした長文を3つアップしてしまうことになってしまいましたが、ご容赦くださいませ。

学会の会場で資料を入れるために配られていたトートバッグと今回の学会のシンボルマークのピンバッヂです。様々な意味をかけた秀逸なデザインだと思いました。
自分へのお土産はこれらのグッズと、さまざまな演題から得られた知識なのですが、知識のほうは活動の中で還元していけたらと思っております。
来年の学会は大阪・上本町です。また11月最終週の平日なのですが、遅い時間のシンポジウムや土日に関連イベントもあるのではないかと思います。
来年もきっと行きますので、OGbの皆様よろしくお願いします(笑)。

