2012年12月26日

また新しい課題が登場した日本エイズ学会報告HAND編とか。

ばたばたして全然更新できていなくてすみません。
でも、学会の報告だけはちゃんとやろうと思いました。

慶應大学日吉キャンパスで開催された、第26回日本エイズ学会から1ヶ月が経過しました。
形式はここ数年と同じように、今年のキーワードを軸に何本かアップしていく形式です。

まず最初に取り上げるのは、今年臨床系で話題沸騰、【HAND】であります。

HANDは“HIV-Associated Neurocognitive Disorders”の略です。neurocognitiveって滅多に目にしない単語ですが、「認知神経科学的な」などと略される言葉で、HANDの訳は「HIV関連神経認知障害」となるそうです。
認知障害というと、以前は痴呆症と言われていた高齢者の「認知症」を想像しがちですが、HANDというのはもっと幅の広い言葉のようで、認知機能の低下レベルに応じていくつかの段階があるようです。

・HIV関連認知症(HAD = HIV-Associated Dementia)
 →重症の認知機能障害、運動/行動異常がある

・軽度神経認知障害(MND = Mild Neurocognitive Disorder)
 →転倒しやすいなど、日常生活に軽度の障害がある

・無症候性神経認知障害(ANI = Asymptomatic Neurocognitive Impairment)
 →日常生活上では症状が見られないが神経心理試験などにひっかかる

このうちHADは目に見える障害なので、逆にこれまでの治療の過程でもまず見逃されることはなかったわけですが、実はよく調べてみるとHIV陽性者に同じ世代の陰性の人に比べて軽い認知障害がみられる事例が多いことがわかって、これからはMNDやANIにも注意しましょうという流れになっていて、今回の学会で突然注目を集めたということなのです。
認知機能障害は軽度であっても、薬の飲み忘れが増えるリスクがあるとか、転倒しやすくなったりということがあります。最近は骨密度の低下の副作用が話題になっていましたので、それに加えて認知機能障害で転倒が増えれば当然骨折のリスクが高いということにもなりますね。

そこで問題になるのが、「じゃあどうやって判定するの?」ということなんです。
認知機能を判定するための神経心理試験などの検査、本格的にやろうとすると一人2時間とかかかってしまうそうなのです。
これ全員にやろうとすると、患者さんが集中している病院では物理的に無理だろって話。なので、まずはそうした本格的な検査が必要な人とそうでない人を見分ける手法を確立することが必要、っていうのが臨床的に課題になっているわけです。

ヨーロッパのガイドラインには既に、簡単な質問を3点実施して、それによって気になる所見があれば本格的な検査に進む、ということが盛り込まれているそうなのですが、日本人の性格的なものを考慮して日本版のHANDスクリーニング法(検査が必要な人をふるい分けする方法)が必要だという提言がありました。
日本人は曖昧な回答をしがちなので、ヨーロッパの質問をそのまま導入しても判定しにくい可能性があるので、日本人向けのものを開発しようってことです。

それからもうひとつ重要なのは、認知機能の検査にひっかかったときに、HIV以外の原因ではないのかをきちんと検査すること。
HIVが脳の血管に炎症を起こすなどして起こるのがHANDなのですが、HIV陽性者の寿命が延びた今、別にHANDでなくても高齢による認知障害が起きたりすることはあるわけで、そこをきちんと鑑別しないと、適切な治療ができないわけです。

HANDの治療についてもちょっと解説がありました。抗HIV薬の中には脳にいるHIVに影響を与えやすいものと与えにくいものがあることがわかっていて、つまり与えやすい薬に変えると、HIVが原因だった場合は認知機能障害が低減するわけです。今後出てくる新しい薬も脳への影響が常に評価されていくと思います。
なので、HIVが原因ならそうした治療が効果が期待できるわけですが、HIVが原因ではなかった場合をきちんと見分けず薬を変えると、これまで効果が高かった薬をわざわざ変えて、副作用なんかも出たりして、でも認知機能は改善しない、みたいな状況になることも考えられます。なので鑑別がまさに大事なのです。

逆に患者側としても、「最近物忘れがひどい」「何もないところでよく転ぶようになった」なんてことは感染症の外来ではあまり言わないことだったと思うのですが、これからはちょっと相談してみてもいいかもしれません。
メンタルヘルスの問題なども認知機能は関わるので、患者自ら勝手に診断するのではなく、可能性の一つとして主治医と一緒に考えてみるのがいいんじゃないかという印象をもちました。

今年の学会報告は多分4本かなと思います。あいにく画像をほとんどとっていないのでテキスト中心ですがご容赦ください。
posted by sakura at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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