2011年12月25日

福祉とHIV/AIDSを考えるエイズ学会報告その1とか。

今年は学会以降毎週のようにイベントごとが続いたので、学会のまとめが遅くなってしまいました。
でも年越しは何とかさけて、きちんと今年のうちに振り返ろうと思います。

毎年エイズ学会の報告の形式は考えるところがあります。
日付別に書くと、基礎・臨床・社会の各分野の話が常に混ざることになるので、昨年はテーマごとに書いたのですが、横断的な話が扱いにくいということもありました。
そこで、今年はいっそのこと、僕がこれだと思ったシンポジウムや、演題発表についてダイレクトに書くことにしようと決めました。
とはいっても結局長文になってしまうのですが、よろしくお付き合いください。


まずは初日の夜の社会系のシンポジウムから。
ソーシャルワークのシンポジウム「HIV陽性者の包括的生活支援を目指して〜ソーシャルワーカーによるミクロ・メゾ・マクロ実践への挑戦」に行きました。
このシンポジウム、一番奥だしとても小ぢんまりとしていたけれど、内容的にはとても良かったです。陽性者向けのスカラシップの裏番組になってしまったのですが、当事者の人にもぜひ参加して欲しいシンポジウムでした。

まず良かったと感じた点は、本来は当たり前だろうという話になるべき部分ですが、HIVをめぐる諸問題がはじめて「地域福祉」の世界に降りてきた、という感じがあったこと。
調査研究レベルではなく、実践としての話です。

このシンポジウムは東京・八王子の社会福祉法人武蔵野会の山内さん、大阪・門真の地域生活支援センター「あん」の脊戸さんが地域福祉側のパネリストとして立ち、それに対して医療側も東京・駒込病院の関矢さん、大阪医療センターの岡本さんがパネリストとなり、概ね経験談ベースの話をしながら、和やかに困難さと今後に向けての提言をぶつけ合うという構成になっていました。聞いていないのでわからないのですが、多分スカラシップのシンポジウムより理解しやすかったと思います(憶測による風評の例)。

地域福祉とHIVは、最近は高齢陽性者の問題として語られることが多いのですが、それだけではなくて、例えば知的障害を持っているHIV陽性者、複合的な身体障害を持つ(場合によっては発症の後遺症であることも)HIV陽性者の問題も同様に存在するわけです。
メンタルヘルスに関連して精神障害や依存の部分はやや先行して語られていて、そのほかの福祉の分野はあまり触れられてこなかった部分だと考えます。

それらは細分化してしまうとまだまだレアなケースかもしれないのですが、「地域福祉」という大きな枠組みで捉えられて経験が共有されることは良いことだなぁと思うわけです。
そして、山内さんが「福祉施設が陽性者を自分たちのクライアントになりうる人々として受け止める」という、これも当然のことを「当たり前ですよね」で終わらずにきちんと分析されていたことが印象的でした。
陽性者の受け入れまでに福祉施設の中で現れる5段階のステップを分析されていたのですが、以下のようなものでした。
−−−−−ーーーーー
1 いきなりのエイズ
2 現場のたな卸しと整理
3 社会的使命による原動力
4 場の立ち上げと現場の納得
5 サービスを構造化する
ーーーーー−−−−−
中でも3番目のステップである「社会的使命感」と「現場の納得」を重要なポイントに挙げられていました。

受け入れを打診されたときに、まず打診された人が「社会的使命感」として受け入れを前向きに考えたとして、その次の「現場の納得」にこぎつけるまでが一番大変だという点で、医療側の岡本さんと完全に一致していたように感じられたのです。
岡本さんのほうは、「キーパーソンの心が折れないように支える」と表現されていました。

例えば、受け入れを検討するに当たって、施設長などがまず受け入れを検討することを決めて、施設のスタッフ会議や、医療と福祉が同席してのカンファレンスが実施されるわけですが、この場で現場の猛反発に合う、という事例が多々あるのだそうです。それは理解不足から来る根拠の無い不安などによるものなのでしょうが、知識を与えただけでは解消されないことがエピソードとして示されました。
福祉の人は困っている人には常に救いの手を差し伸べるだろうという理想的な福祉像はあっさり崩壊し、それぞれが現実的な解決策・・・受け入れるという解決策も受け入れないという解決策も起こりえますが、それをめぐって対立する構図になるという実例でした。

ところで、ある調査では、医療・福祉職にまとめられていましたが、就労中の陽性者のアンケートで10%くらいがこの職種にあると回答していました。つまり福祉施設にもある程度の陽性者が職員として入っているということです。必ずしもカムアウトを伴わない形で。
実は福祉の現場の理解ってそちらの意味でも重要で、例えばこの現場が猛反発しているカンファレンスに、職員の一人として陽性者が同席していたらどうでしょう。とんでもなくいたたまれないことは間違いないです。あるいは同僚の態度にキレてしまうかもしれない。
でもその場の勢いでのカムアウトとかは余計な混乱を招きそうですし、避けて欲しいと思います。
受け入れとしても、また働く場としても、本来福祉の職場ってもっと陽性者が理解されてしかるべきなのだと思うのです。

その一方で、福祉業界にいる立場としては、じゃあHIV、せめて免疫機能障害について学ぶ機会ってどのくらいの頻度で提供されるのか、と考えると、まあ全然無いよね、って思ってしまうのが実情なのです。現場は実務でいっぱいで、研修の時間は決して多くありません。
エイズが世の中に登場して30年、というフレーズは学会中なんども使われましたが、この30年の間、HIV/AIDSの問題は医療の内側にいる時間が長すぎて、福祉の世界ではまだ新しい課題のままなのかもしれません。
そのタイムラグを埋めないままに医療が福祉の世界にアプローチしても壁は高いのだろう、と思います。
そして医療側も福祉側も、もしかしたら当事者も、その壁をどうにか低くする努力をもっと重ねなければならないのだろうと思います。

などという語りも理想ではあるのですが、シンポジウムの中では、年齢層により受け入れへの前向きさ・後ろ向きさに違いがあるという話も出ました。
これはおそらく、30年前のエイズ報道から、日本にエイズが上陸してエイズパニックを引き起こしたあたりの記憶があるかどうかなのだろうと思います。
反対に、若い層では意外と抵抗が無い。このことは僕も大学の授業にゲスト講師として呼ばれたりする中でも実感していることです。

これから福祉の世界の担い手になる人たちに、福祉系の大学などの教育の場で、もっとHIVのことを伝えていく必要があるのだろうな、と自分の中ではまとめました。
ボランティア活動とは違う形で自分にできることも、より具体的にためして行くべき時期なのかもしれません。

学会報告はあと2回くらい続きます。
学会以外にも報告したいことがたくさんあるのですが、果たして年内に終わるのか・・・・(苦笑)。
posted by sakura at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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