2010年12月19日

今後重要度を増すはずのエイズ学会レポート薬物編とか。

この週末を使ってのラストスパートで、5本にわけて書いてきた学会レポートもなんとか学会終了後1ヶ月経過する前にアップできました。

学会誌や配布物.jpg

実は学会の配布物が僕の部屋の中に産卵した状態はまだ続きますが(爆)。


最後に取り上げるのは、薬物依存症のシンポジウムと、関連の深い精神科の医療連携です。これはこのところ急速に重要性がうたわれてきた(実際には前から問題だったわけですが)印象がある話題です。
もう一度だけ長文にお付き合いください。


薬物などの依存症、そしてメンタルヘルスに関しては、今回は2つ重要なセッションがありました。初日のシンポジウム「薬物依存とHIV」、そして最終日の共催セミナー「HIV陽性者を巡る地域支援の連続性」です。

前者は、そもそも薬物依存について知ろうというセッション。国立精神・神経センターの和田先生からまず薬物依存とは何なのかという点が非常にわかりやすく説明されました。

大雑把にいえば、まず薬物を使用する「薬物乱用」があり、その結果脳が薬物を求める衝動を自分でコントロールできなくなったときに「薬物依存」であるということです。
まず「薬物乱用」と「薬物依存」と「薬物中毒」の違いについての解説がありました。
「薬物乱用」は使う行為のことで、1回でも使えばそれは「薬物乱用」であるそうです。ですのでその行為をとらないように警察が取り締まります。そうして服役などにより薬物から引き離して対処します。

しかし「薬物依存」の段階に進むと、薬物を探し求めるという行動が自分で抑制できなくなります。ここで大事なことは、それは脳の問題だと言うことです。薬物依存が脳の問題である以上、それは「治療」の対象であり、なおかつ完治はしないそうで、回復のためのプログラムを使用して日々薬物探索行動を抑え、改善に努めることになります。しかし日本など薬物に関して法規制が優先される国では治療ではなく「処罰」が与えられてしまいます。そして刑期を終えて出所するけれど、脳の症状は改善していないので再び薬物を求めて再犯となる、以下繰り返し、ということだそうです。

「薬物中毒」は幻覚などの身体に影響が出た段階です。この「薬物中毒」は治療ができます。しかし治療しても「薬物依存」の状態に戻ると言うことです。このあたり実はHIV感染とエイズ発症の関係にもちょっと似ているかもしれません。

この「依存」をどうにかすることが最大の問題だと言うことになります。

今回はダルクスタッフの方(ご自身も当事者)と当事者の方も登壇し、ダルクの説明や回復のためのプログラムについても話がありましたが、医療少年院などではそうしたプログラムが一部実施されているものの、必要な人すべてに提供されているわけではないことも語られました。ただこうしたプログラムを受けると、ダルクのスタッフとの間にコミュニケーションが生まれ、出所後にダルクにつながり継続したプログラム参加がスムーズにいくことがあるそうです。

先日NHKの番組でアメリカのドラッグコートの様子をたまたま見たのですが、裁判所が薬物使用者を回復プログラムにつなげる働きをすることで再犯率を減らしているそうです。まずはそうした「治療が必要」という認識を広げていくことが大事であると同時に、HIVにも感染している薬物依存の方は「2つの疾患を抱えている」ということをしっかり受け止める必要があると思いました。
そう考えると他科診療の問題がやっぱりこの分野に浮上してきて、拠点病院は薬物依存症の治療ができるのか、という問題もあるように感じます。

質疑応答では「ハームリダクション」という単語が出てきまして、本題ではないのでさらっと流す形になってしまいましたが、今後この言葉はHIV関連のシンポジウム等で耳にすることが多くなりそうです。一応解説ページもご紹介。

http://www003.upp.so-net.ne.jp/shout/harmreduction.html

ドラッグコートができる前は日本とアメリカが断固反対していたハームリダクション、現在は日本とロシアが断固反対しているようです。


余談ですが、当事者の方は砂川秀樹さんらの著書「カミングアウト・レターズ」を服役中に読んで支援団体につながったとか。実は今回の学会、砂川さんのパートナーさんが3日間参加されていて、かなりの時間僕と一緒にいたのですが、この時間帯は裏番組のセッションに行ってしまっていたのです。後からお伝えしたら大変感激されておられました。


もうひとつの最終日のセッションですが、内容に入る前にひとつ。
このセッションは手前のセッションが押した結果なんと30分遅れてスタートとなってしまいました。学会ではもはやあり得ないレベルの遅延ぶりです。
ちなみに手前のセッションは一般演題の「分子疫学」(基礎分野)だったのですが、さらにその手前の「宿主因子」(やはり基礎分野)からもしかしたら遅れていたのかもしれません。詳細は分からないのですが、危うく垣根を超えて一触即発になるところでした(苦笑)。

こちらのセッションはHIV診療を行うクリニックである新宿東口クリニックの山中院長と、同じくしらかば診療所の精神科医の平田先生、東京女子医大のナースの岡野さん、町田保健所の向山さんという、まさに現場からのパネリストが揃っておられました。

ここで出てきたキーワードは「リエゾン精神看護」。

リエゾンとはフランス語で「つなぐ」とか「橋渡しをする」という意味なのですが、東京女子医大ではメンタルヘルスに関する部分をHIVの専門看護師だけでは担いきれないところもあり、精神科のリエゾン精神看護を勉強した専門ナースが協力して、精神科との連携をはかっているとのことでした。
精神科はまだまだ敷居が高く、患者自身が抵抗があると言うケースも多いようですが、本来薬の問題さえ相互に理解されていれば、治療に際して出血をともなう科ではないので連携しやすい領域、という指摘がありました。また大病院の精神科ではなく町のメンタルヘルスクリニックのほうが症状からも通院環境からも適している場合が多いので、あとはどのようにHIVへの理解を深めていくかがポイント。ただし現状では医療者個人のネットワークによるところがあるようで、このあたり町田保健所の向山さんからは公的な診療ネットワークを意識した「まだまだ保健所にできることがある」という心強い言葉が聞かれました。
全体を通して見ると、精神科の治療に関する知識もある程度はHIV専門医もあったほうが良いが、専門領域に踏み込むのではなくあくまでも連携していくことのほうが重要との印象がありました。ただし今回は首都圏の方での話でしたので、地方に行くと若干事情が異なる部分があるかもしれません。診療科が何であっても「近所の町医者へのカムアウト」への抵抗感は残ると思いますので。


以上で今年の日本エイズ学会のレポートを終わります。
ずいぶん長くなってしまい、また最終アップまでの時間もかなりかかってしまいました。さすが日本最大のゲイイベントは書くことが多すぎますね(ゲイイベントではありません)。

来年は何とエイズデーをはさんだ11/30〜12/2という強行日程(汗)で、新宿のハイアットで開催されます。でも仕事帰りに一般公開シンポジウムに行くチャンスは増えるかもしれませんね。
posted by sakura at 17:02| Comment(5) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
レポートありがとうございました。
どうしても休みが取れずに参加できませんでしたので、助かりました。
来年も東京ですか。
来年もレポートよろしく。
Posted by やじ at 2010年12月20日 00:16
>やじさん

少し関東圏が続くようですのでレポートはしっかりやっていこうと思います。
でもいずれまた関西圏に行くと思うので、その時にはぜひお会いしましょう。
Posted by sakura at 2010年12月24日 11:58
ありがとうございました。勉強になりました。
(ここ最近忙しく久しぶりにブログに目を通しました... 「ハームリダクション」ねぇ。メモメモ....)
Posted by かわちゃん at 2010年12月26日 16:23
アタシのところも資料が産卵・・・昨日やっと格納したわ。
Posted by そう@不良主婦 at 2010年12月27日 01:13
>かわちゃんさん

ハームリダクションは日本では受け入れにくいかもしれないんですが、回復プログラムにうまくつなげる努力は少なくともしていかないといけないんじゃないかなって思っています。

>そうさん

わお、今誤字に気づいた(汗)。
でもこのコメントの意味がわかりにくくなるからそのままにしときます(爆)。
Posted by sakura at 2010年12月28日 23:10
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