2010年12月10日

ようやく取り上げられたエイズ学会レポート陽性者パートナー編とか。

エイズ学会のレポートを、2つ前の記事から書いています。

日本エイズ学会でも、陽性者本人ではなくパートナーへの告知や支援については演題として取り上げることがあまりなかったのですが、今回、ワークショップとして「パートナーへの告知と支援」が独立したセッションとなりました。
このブログでの学会レポートでも、独立した記事にしたいと思います。

僕自身はこのセッションが生まれたことをとても重要に感じていました。そもそも、陽性者本人に比べてパートナーへの支援が手薄なのは明らかで、逆にここが手厚かったら、告知直後に別れるカップルも少なくなったりするんじゃないかなぁ、異性愛の方で婚活で苦労されている方も減るんじゃないかなぁ、なんてことも思ったりするわけです。

しかしこのセッションは、ある先生の言葉を借りれば「本学会で最も議論を巻き起こしたセッション」になったのです。
なぜそうなったのかを僕の所感や補足を交えて書いていきたいと思います。

ワークショップと言うのは、同じようなテーマの演題を集めることでより深くその問題を考えようと言うセッションです。別にグループ学習とかがあるわけではないのですが、連続して聴くことで、特定のテーマをいろいろな角度から学ぶことができます。
「パートナーへの告知と支援」という形でまとめられていますが、「告知」と「支援」はある意味相反するところがあります。パートナーへの告知と言うのは今回の学会発表においては「周囲の人の理解」というような意味合いではなく、「陽性者のパートナーと言う、ハイリスク層への検査勧奨」という意味でした。これは当たり前ですがパートナーへのカミングアウトを意味しています(カムアウトせずにパートナーに検査に行かせるテクニックを持っている方もいるかもしれませんが)。
しかしながら、陽性者支援の現場ではカミングアウトについては極めて慎重です。特に陽性告知直後に陽性者が混乱した状態でカミングアウトすると、パートナーも一緒に混乱して収拾がつかなくなることはよくある話です。
というわけで、今回のワークショップは、最初から、公衆衛生を担う保健所や医療サイドは、パートナー全員にすみやかに検査を勧めてほしい、しかし支援のサイドはそんなに簡単に言わないで、という対立構造がなんとなく描かれているようなワークショップだったのです。

そして予想通りと言うか予想以上の議論が勃発したわけなんですが(苦笑)。

ワークショップでは保健所での検査勧奨状況、大規模医療機関で調査した患者のパートナーへの告知状況について発表があり、最後に陽性者のパートナーからの電話相談の内容についての分析を発表を支援団体がしたのですが、保健所と医療機関の発表には実に10人以上が質問や意見を述べるためにマイクサイドに立つという活発さ。こんな演題はなかなかお目にかかれません。
活発さと言うと聞こえはいいんですが、その内容は概ね反論や厳しいご指摘系だったのですけれど(爆)。

まず保健所の方の発表後のやりとりで明らかになったのは、そもそも「パートナーへの介入が必要」以上の指針が何一つないという事実、そして「パートナーの定義」という点さえ現場での判断に任されているとみられる点でした。

公衆衛生側で根拠としているのは「性感染症における特定感染症予防指針」です。これはクラミジアなどの指針ではありますが、HIVについても連携することが明記されているので、HIVにおいても適用されると考えて良い指針です。
http://www.jfshm.org/std/houritu/12-2-2/r-main.html
この中からこの記述がある部分と、すぐその次にある項目を抜粋します。

◆◇◆◇◆
第二 発生の予防及びまん延の防止
三 検査の推奨と検査機会の提供
(前略)
また、都道府県等は、住民に対して保健所における検査の受診を推奨するとともに、受診しやすい体制を整えることが重要である。また、様々な検査の機会の活用を推奨していくことも重要である。
なお、検査の結果、受診者のパートナーに感染の可能性がある場合は、パートナーの検査も推奨し、必要な場合には、医療に結び付け、感染拡大の防止を図ることも重要である。
さらに、国及び都道府県等は、性感染症の検査の実施に関して、学会等が作成した検査の手引き等を普及していくこととする。

四 対象者の実情に応じた対策
予防対策を講ずるに当たっては、年齢や性別等の対象者の実情に応じて追加的な配慮を行っていくことが重要である。
例えば、若年層に対しては、(中略)
また、女性は、感染しても無症状の場合が多い一方で、感染すると慢性的な骨盤内感染症の原因となりやすく、次世代への影響があること等の特性があるため、女性に対する普及啓発は、対象者の意向を踏まえるとともに、対象者の実情や年齢に応じた特別な配慮のほか、性感染症を女性の性と生殖に関する健康問題の一つとしてとらえるような配慮を加えることが重要である。
◆◇◆◇◆

この第二項の三をもとにパートナーへの検査を推奨しているわけですが、支援側としてはむしろ第二項の四に書いてある対象者の実情に応じた追加的な配慮を期待したいわけです。実例が若者と女性になっているとはいえ、理念としては個々の事情を考えよう、まして偏見の残るHIVに関してはさらに個人の事情をきちんと踏まえよう、という対応が求められるのはまあ自然です。

まして保健所と言う告知の場での話となると、陽性告知の流れの中で「パートナーさんにも検査するように言ってね」と伝えると言うことです。告知直後の陽性者に対しての要求としてはいかがなものでしょう。
で、よく考えてみれば、保健所だって陽性告知後のカウンセリングでは、告知直後の混乱した状態でのカミングアウトはお勧めできない、と伝えることもあるはず。現場の保健師さんにとってはどうしろと、という話です。
発表者の保健所の方も「介入しろと言うこと以外何も決まっていない」と明言し「一定の方向性を決めることが大事」とした点は潔かったと感じました。実際「決まっていないことが確認できて良かった」という声もありました。
その方向性を決めるにあたって、支援者の意見が加わっていれば良いのではないかと思います。

では、患者とある程度長くお付き合いすることになる医療機関のスタッフが、タイミングを見計らって陽性者にパートナーへ検査を勧めるよう伝えるのがいいのかな、ということになります。しかしこちらはこちらで看護師の方の発表の後に大議論。
その原因は、「パートナーがいる(いた)人全員が、感染リスクのあったパートナー全員に検査を勧める」というのが目標になっているようなフシがあったことが大きな要因であったように思います。

さっそく「陽性者がパートナーに告知することを拒否する権利は担保されているのか」という質問がありました。
性的パートナーには元彼・元彼女が当然のように含まれていて、なおかつその関係が別れた後の現在も良好であるとは限りません。極端なことを言えば、「全員が全員に伝える」前提では、DV被害でパートナーから逃げてきた人であってもそのパートナーにコンタクトしなければなりません。
また、場合によっては傷害事件として訴訟沙汰になるリスクもあります。リスクのあるセックスを選んだのはどちらか片方ではなく二人であるケースも多いと思うので、性感染症を立件するのは少々微妙だと思うのですが、誰からうつされたのかに過敏になる方も当然います。
海外では、性的パートナーへの告知は医療機関などが代行するところもありますが、個人情報の問題もあります。セクシュアルマイノリティーにとっては尚更でしょう。
そもそも全員にっていう発想から脱却したほうが良いのではないかとも感じます。

こちらでは僕も一つ質問をしました。
僕からの質問は、調査結果に対して極めてシンプルな疑問のつもりで発言しました。調査結果ではこうなっていたのです。

◆◇◆◇◆
特定の性的パートナーがいた175人を対象に調べたところ、
パートナーに告知できている人が130人。
告知できていない人が45人。
◆◇◆◇◆

一見きれいな数字ですが、よく考えると「・・・・あれ?」と思いませんか。
今のパートナーには言えているけど元パートナーには言えていない、という人はゼロなのでしょうか。
セフレが二人いるなど、特定のパートナーが複数いる人がいてもおかしくありません。全員に言えているか全員に言えていないかどちらかなのでしょうか。

この点を指摘したら、あっさりと「確かに特定のパートナーが複数いる人はいました」との回答が。この回答でちょっと僕もヒートアップすることになったのですが(汗)。

この話は、前述した予防指針にもあるように、そもそも「パートナーへの予防と検査」のためのものなので、公衆衛生的な考えに立ったとしても、「ハイリスク層にどのくらいアプローチできているのか」の調査結果になっていません。この数字だとパートナーの75%くらいは陽性者から告知されているみたいですが、告知できていない人の中に何十人もセフレがいる人が数人いれば数字はひっくり返ります。そこが反映していない調査は公衆衛生的にもダメだろうと思うのです。
結局、この方向だと「パートナーに伝えることができない、という陽性者の伝えられない原因を調べてみんなが伝えられるようにしよう」という流れになるのではないかと懸念してしまいます。DVの例は極端だとしても、「今のパートナーに配慮して、元彼には連絡取りたくない」なんてのは同性愛異性愛関係なくありがちな恋愛模様として想像できるはず。また自分は元パートナーの連絡先は携帯などから抹消していて、共通の知人を介してでないと連絡できない、なんて場合もあるのではないでしょうか。

ともかくも、この分野は「全くまとまっていない」ことが明らかになったので、来年以降も白熱した議論を期待したいところです。


そういう流れが終わって、最後に陽性者のパートナーの方からの電話相談の内容の発表。多様な相談内容を丁寧にこんなこともある、あんなこともあると紹介しつつ、陽性者のパートナーの方が陽性者の方を伴わずに受けられる支援リソースが少ないということを指摘されました。
発表者の方は明らかに緊張していました(爆)。場の空気と言うものは後をひくものです。
この発表は支援の側からですので、大議論などもはや起こるはずないのですが、発表者の方が「あんなに緊張したことはない」と仰っていたのが印象的でした。
なんて書くと「お前もその一因を作っただろ」とか言われそうですが・・・・でも・・・・あれは関西の支援グループのKさんがガチだったのがイケナイのっ(責任転嫁)。


画像なしで長文になってしまったので、おまけで僕がどんなスタイルで学会に参加しているかでも。

よくある学会スタイル.jpg

だってエイズ学会だもん(酷いオチ)。
posted by sakura at 08:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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