2010年12月08日

まさしく垣根を超えた感のあるエイズ学会レポート臨床編とか。

前の記事に続いてのエイズ学会レポートです。
今回は臨床分野なのですが、ここでは思いがけない展開がありました。


臨床分野と言えば、症例検討とか薬の使用実績とかそんな話がまあ多いのは普通です。
しかしながらHIVは新薬が毎年のように出てくる一方、まだ20年とか服薬するとどうなるのかといった長期服薬の影響は未知数です。そのため、毎年のように薬に関しては新しい報告があります。

中でも、画期的な報告が、薬の組み合わせについて。
HIVは基本的に3種類の薬剤を一度に飲みます。HAART(ハート)療法と言われていますが、これは効き方の異なるタイプの薬剤を組み合わせると、薬に対してウイルスが耐性を持つ可能性がグッと下がるので効果が持続する、というものです。
効き方が違う組み合わせ、ということで、抗HIV薬は「キードラッグ」と「バックボーンドラッグ」というふうに分類しています。バックボーンのほうは1つの薬の中に2種類の薬剤が入っているものが主流で、その薬と、キードラッグを何か、という組み合わせです。
さて近年、これまでの薬とは全く異なる効き方をするアイセントレスという薬ができました。これは効果が高い薬として注目を浴びていたのですが、もう一つ、この薬はキードラッグでもバックボーンドラッグでもどちらでも使えるらしいことがわかってきたのです。
これは使える薬の組み合わせパターンがかなり増えるという発見で、重要な意味があります。ただし難点はアイセントレスは耐性がつきやすいうえに1日2回飲まなければならないということ。ですがアイセントレスと同じ効き方をする薬が増えるとメリットが大きいこともわかりましたので、次の新薬開発につながる発見と思われるのです。

患者の視点では、これまではバックボーンは多くの場合「ツルバダ」という薬か「エプジコム」という薬で、この薬の副作用がひどかったりすると薬の組み合わせが急に残り少なくなってしまっていました。特に日本で一番多く処方されているツルバダによる腎障害が見られる方にはたいへんな朗報と考えられています。
その腎障害ですが、特に体重が50kg以下の方がリスクが大きいとか。でも男性同性愛者中心の患者構成である日本においては、比較的体重がある人のほうが多いでしょうから、高脂血症や骨密度の低下のほうが重大な関心事になっていくように思われました。

最終日のランチョンセミナーでは、医師の見解が分かれる場面がありました。高脂血症やコレステロールの問題に対して、さらに処方を追加するかどうかです。これには東京の国立国際医療センターは比較的積極的、このランチョンの発表者である九州医療センターの南先生は消極的な態度でした。
薬の副作用を薬の追加でどうにかするのはおかしいのでは、と考えるドクターも多いようです。

歯科診療のセッションでは、各地でHIV診療をしてくれる歯科医師のネットワークを作ろうと尽力されている中田先生から、大阪の歯科医師会にチクリと苦言が。相当難航した模様ですが、このネットワーク作りの成果はwebサイトで公開する方針で、現在制作途中だそうです。

歯科というのは、HIVを診るレベルの病院においては「口腔外科」になっていることが多く、もともと領域が違うんですね。なので開業医の歯科の先生にHIVの方の診療をしていただきたいところなのですが、どうしても血液と縁のある疾患に対する理解がすすまないようです。これは社会分野とも絡んでくるのですが、かつてHIVの妊婦を診ていた産科が風評被害を受けることがあり、それが二十年以上経過した今でも生きているのかもしれません。

もう一つ、前の基礎研究のレポートでも取り上げたプレナリーセッションでも垣根を超えたところがありました。
プレナリーはHIVに関わる全ての人向けに発信されるプログラムなので、今回臨床の岩本先生が学会長なのですから当然臨床のプレナリーは学会長の意向がかなりダイレクトに反映されると思っていたのです。そして選ばれたのは、最新の治療は初日だけ、2日目は看護からセクシュアルヘルスの支援、そして3日目には何とカウンセリングが選ばれました。
これこそ今回の学会のテーマ「垣根を超えよう」を如実に示していました。というのも、エイズ学会では長年カウンセリングは「社会分野」で扱ってきたのです。あえて臨床のプレナリーにカウンセリングを突っ込んできた意味、それはおそらく「チーム医療」ということだと思うのですが、そこで発表者の荻窪病院の小島先生は平然とこう言い放ちました。

「患者が医者には伝えたくないことは、命に関わること意外は我々は患者さんから聞いてもドクターには伝えません」

つまり、医者の意向より患者の意向が優先だと、臨床の現場を代表して言い切ったのです。当たり前のことのように聞こえますが、会場の医師に対して理解してもらいたいこととしてこれを話したということは、再確認すべき大きな課題であったということなのだろうと思います。このほかにも「忙しそうにしている医者や看護師に患者は悩みを打ち明けない」などさりげなく重要なことを言っていました。「暇そうなのも仕事のうち」は名言だと思います。

小島先生がいらっしゃる荻窪病院は、陽性者の出産に関する対応でたいへん有名な病院です。それだけに妊娠中の女性の対応も当然回数をこなしておられるのでしょう。また「研修でゲイの方などのことに触れた後で、研修を受けた人から『で、先生、同性愛はどうやって治すんですか』とか聞かれるとガッカリです」というような発言もありました。先生は「自分の発表はデザートのようなもの」と言っておられ、たいへん軽妙なトークを披露されて会場を盛り上げていましたが、それらは様々な経験に裏打ちされたものであることも良くわかりました。
3回のプレナリーセッションの一番最後が小島先生だったのですが、してやったり、というところではないでしょうか。


おまけで会場の夜の様子を。

夜の会場ゲート.jpg

夜の中庭.jpg

ちなみにサンタクロースのイルミネーションです。決して泥棒ではありません(爆)。
そうそう、このイルミネーションがある場所は、日本庭園のすぐ脇です(カオス)。
posted by sakura at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/172281513

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。