2009年12月20日

朝からフルスロットルなエイズ学会1日目とか。

大幅に遅くなりましたが、毎年の慣例を守りまして日本エイズ学会の報告をアップしていきたいと思います。
日付は繰り上げています。

電光掲示板.jpg

今年の会場は名古屋国際会議場。
参加者からは「無駄に広くて移動が大変」という悩みが聞かれるほどの会場でした。血友病の方とかは本気で大変そうでした。

さて初日の朝は、日本のMSM(Men who have sex with men)関連の研究の第一人者、市川先生が学会長だけあって、MSMの一般演題がいきなり組まれました。

その冒頭から日本人男性の中でのMSM人口を推定する調査がついに全国規模に。今回の調査結果での推測は成人男性の2%がMSMとのことで、ただし別の研究で実際にはもう少し高い可能性もありそうで、このあたりは調査方法を無作為抽出するのかなどの問題がありますね(国によっては徴兵のときの調査などもあるようです)。
各国でいろいろな方法で調査したときのデータが紹介されましたがやはりばらつきが目立つ結果に。
ちなみに一番高い数字を示していた国はオランダでしたが、これは性的な指向をどのくらい研究者にオープンにできるかというあたりの差かなと思います。
あと、「REACH Online 2008」をはじめ、リスキーなセックスをしてしまうに至る背景の研究が並んでいてなかなか面白かったです。旅先でリスキーなセックスをする人が、旅行先の地域にはあまりかかわらず、3割くらいの比率で出てくることなどが示されました。

続く一般演題は今回初登場の演題、コミュニティ。
東京以外にも仙台や横浜、福岡のゲイコミュニティでの予防啓発活動や調査結果の発表がありました。
コミュニティでの活動でよく話題にのぼるのは、ある程度年齢の高い層になかなか予防啓発のメッセージが届かない、という話です(若年層は若年層で大変なのですが)。
で、この「ある程度年齢の高い」というのを、僕らはおおむね50才あたりで区切っていたのですが、福岡だけがちょっと状況が違っていて、ほかの地域での活動に比べて、啓発効果が出ている層が若い方にずれている印象があって興味深かったです。
また、コミュニティの枠ではゲイ向けだけではなく、セックスワーカーについての発表もありました。
実は学会前日に上智大学で開催されたブラジルのHIV予防活動の講演会(学会では28日に開催)でセックスワーカーのコミュニティの話も聞いていたので、日本でセックスワーカーがコミュニティという形になっていないことの弊害などを再確認できました。

ここまできてお昼に。学会のランチタイムと言えば恒例のランチョンセミナーです。僕がチョイスしたセミナーは「HIV治療の新展開」。
日本で一番患者の多いエイズ拠点病院のボス、国立国際医療センターの岡先生の発表でした。
さあここから抗HIV薬についてマニアックな解説ですよ(爆)。
薬の組み合わせとして今は「キードラッグ」と「バックボーンドラッグ」という考え方があり、組み合わせて飲みます。なので複数の薬剤を混ぜて使うから「カクテル療法」なんて言うわけですね。
これまでは薬の効き方の仕組みによってキードラッグかバックボーンドラッグに振り分けられていたのですが、この学会でも非常に多く取り上げられた新薬であるラルテグラビル(商品名はアイセントレス)は、現在はキードラッグとして使われているものの、実はバックボーンにもなりうるのではないかという見解が示されたのです。
これが可能になると、薬の組み合わせのパターンも非常に広がります。広がるということは最初の投薬の選択肢が増えるだけでなく、副作用や耐性などで使える薬が減っても、まだ使える組み合わせが残りやすくもなるわけです。
ただ、アイセントレス自体は薬剤耐性ができやすいとの話もありました。
ともかくもアイセントレスに関しては今後もさまざまな治験や研究が行われていくことになるのではないかと感じています。

そんな話を聞いた後、さらに一般演題の抗HIV療法へ。
ダルナビル(商品名はプリジスタ)やエトラビリン(商品名はインテレンス)についての発表もあったのですが、まあ全体を通してラルテグラビル特集、という感じでした。
ほとんどの研究でウイルス抑制効果が高いことが示されていました。検出限界値以下まで下がるのにかかる時間が短いということですね。その一方で、CD4の上昇スピードはそこまで速くなく、横ばいの状態が続く方もいる模様。
飲む側からすれば、実はこういう情報を得ているかどうかが大きいのかな、と思います。なかなかCD4上がらないな、と不安に思いながら飲み続けるよりも、とにかく素早くウイルスを減らして安定させる薬なんだ、と思って飲み続けるほうが楽だと思うんですよね。どんな病気でも治療を続けるために最も重要なのはモチベーションだと思うのです。
ただし、まだアイセントレスそのものの副作用などについては、より多くの症例での検討が必要なようですから、本当のアイセントレスの評価は来年の学会で、ということかもしれません。
ちなみにこの演題では、仕事上の都合やむを得ず東海地方のゲイネタに異様に詳しくなってしまったことで昨年も取り上げた、山田赤十字病院の坂部先生が登場。昨年に引き続き素晴らしい発表で、抗HIV療法の一般演題で会場を笑いで包むという離れ業を見事に演じ、著名な諸先生方から絶賛されていました(注:本人は笑いをとるつもりはたぶんないです)。

なぜかこの日は気分的に臨床系に突っ込んでいきたい衝動にかられ、さらに一般演題の肝炎2・STI・STDに。
たださすがにこれは難しかったです。
大阪府立公衆衛生研究所の川畑先生がB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子型の発表をされていて、大阪のMSMの間で日本では極めて稀なタイプGのHBVが見つかっていることなどを発表されていたのですが、僕自身が肝炎についてはまだ勉強不足なので、肝炎に関する臨床トークはさすがについていけませんでした。
梅毒やアメーバ赤痢は思ったよりいけたのですが・・・・こういう自分の知識の偏りに気がつくのもまた学会での重要な気づきではありますね。
梅毒は東京医科大の症例検討からでしたが、フロアからの質問でパートナーとのピンポン感染の話が振られ、それに対して山元先生が「といってもセックスの相手が不特定な例が多いんで・・・・」と非常にいいにくそうにしていたのが大変印象的でした(笑)。あと、終始楽しそうでご本人も「梅毒研究大好き」と公言している、しらかば診療所の井戸田先生も印象深かったですね。

この日の最後は、前の記事でも触れたシンポジウム「MSM社会とのインターフェイス」。臨床系研究と社会系研究のコラボレーションを掲げたシンポジウムです。
裏番組が強敵揃いで参加者は少なめでしたが、MSM向けの予防に関わるNGO関係者が多く見られました。本当は、コラボシンポジウムという特性上、裏番組に「治療の手引き」なんかぶつけちゃいけないんじゃないかと思われるのですが。
でも内容はなかなか。話題の方向が「臨床とMSM向けの予防施策の協働」という方向に行ったので、自分に非常に合った内容になりました。
特に、前のSTDの演題でも登壇された川畑先生が、このシンポジウムではMASH大阪や戦略研究との連携について、データ重視のHBVとはまったく違う表情で語られていたのが印象的でした。この人は現場の人だな、という感じで、コミュニティと接してみて初めて見えることを語られていました。
でもそれは裏返すと、コミュニティが見えにくい地方などでは接する機会がまず生まれにくいということでもあると思います。なんとなくHIVの臨床医の先生はそれなりにMSMフレンドリーなんじゃないかと思いがちだけれど、フレンドリー以前にMSMという言葉さえ知らない人もいて、医師の数や設備だけではない「格差」を生んでいる気がします。
同時に、実はコミュニティの側にも、臨床の現場とつながるだけの準備が求められるのではないかとも、コミュニティベースで活動している身には強く感じられました。去年の地方医療のシンポジウムで愛媛大の高田先生が「MSMの人たちから学ぶことが多い」とおっしゃっていたことを思い出しました。


こんな感じで一日目はMSMに始まってMSMに終わるということになりました。
以下3日間の学会報告にお付き合いください。
posted by sakura at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ボランティア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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